something-ryuji

ちりめん三尺ぱらりと散って・・・

脚本･主演の金子正次を伝説の人にしたあの『竜二』を素材にした『竜二Forever』という映画が作られていると知って、実はとても複雑な気持だった。

私の中で竜二は金子正次さんそのもの。
他の役者がやる竜二なんて絶対、観たくない！
反射的にそう思った。

以前も、なんかの折に書いたかもしれないが･･･

シナリオの勉強を始めて間もない頃、シナリオ教室で知り合った友人など計４名で湯布院映画祭に行った。
シナリオライター目指して張り切っていたものの、映画の世界のことは（テレビの世界も）ほとんど知らない。
行けば何か一つでも多く知ること、感じることができるかもしれない･･そんな貪欲な期待を持って参加した。

２日間だか３日間だか、朝から夕方まで映画上映とシンポジウムにどっぷり。
その時、上映された映画のひとつが『竜二』だった。
この時まで、私はヤクザ映画というものをほとんど観たことがなかった。
それでも、この竜二というヤクザを主人公にした映画は、今までのものとは何かが違うということは分かった。
最後の、妻との別れのシーンは衝撃的だった。
肉屋の前、買い物篭を下げたまま、黙って去っていく竜二を見つめる妻・・・

「こんなラストシーンを書けるかい？」
そんな大きな宿題をドンと突きつけられたような気分だった。

上映後のシンポジウムに現れた金子さんは本当にカッコよかった。
映画の竜二と同じ真っ白いスーツに黒いサングラス。
飾りっけのない、自分の気持を自分らしくストレートに言葉に出す人。

そのシンポジウムで妻役の永島暎子さんは・・・
「私は、“百姓でもやらない限り、子は産まないぞ”なんて、頭の片隅で思って東京に住んでいたんです。そっち側に居る女として、しがみつきたいけど男が行くなら行かせてやる、というラストの部分が気に入ってお受けしたんですけど･･･」
と語っている。

その夜のパーティーには永島さんをはじめ『スローなブギにしてくれ』などの脚本家・内田栄一さん、俳優の石橋蓮司さん、内田裕也さん、映画評論家の白井佳夫さん、南俊子さんなど私でも名前を知っている人々がたくさんいた。
当時、内田栄一さんも憧れの脚本家の一人だった。

でも、私が一番話を聞きたかったのは金子さんだ。
何人もの人が、入れ替わり立ち代り金子さんを取り囲んだ。
私も一言でも多く金子さんの話を聞きたいと彼の話に耳を傾けていた。
金子さんは今日の出席のために肝臓の手術を麻酔ナシでやってきたとかで、途中から椅子に座っていただき、私たちは地べたに座るような格好で金子さんを取り巻いて話を聞きつづけた｡
話の内容は、今となっては覚えてない。
だけど、一生懸命、熱心に映画の話をしていた金子さんの姿は今でもありありと思い出す。
正真正銘、金子さんは命を削って『竜二』を作ったのだ。

由布院から帰って間もなく、「『竜二』を励ます会」の案内状が来た。
湯布院での金子さんの熱気がまだ残っており、私は友人とその会に出かけた。
内田栄一さんを始め、女優の秋吉久美子さんなども激励の挨拶に来られていた。
この時も、金子さんは真っ白いスーツだったと思う。
たくさんの人が集まり、金子さんは上気して、とても嬉しそうだった。
だが、また体が細くなったようにも見えた･･･。

これが金子さんを見た最後だった。
昭和５８年１１月６日　松田優作氏らに見守られて金子正次は３３才という若さで逝ってしまた。

川島透監督によると
　映画作りにはクリエイティブな感覚が要求されるが、金子の映画に対する見方は違った。
　金子にとって映画は、夢、情熱、衝動であり心意気であった。
　これが『竜二』制作のつまづきであり、同時に『竜二』が人を魅了するのも、こうした金子の映画への
　思いが作品に宿っているからではないだろうか。
　　　　　　　　　　（『ちりめん三尺ぱらりと散って・俳優金子正次　３３歳の光芒』　生江有二著）

「待ってろよ・・・」
これが金子正次の口癖だったという。

自分自身を励ます時･･･
悔しかった時･･･

「待ってろよ。今にな・・・待ってろよ」

そして、金子正次は『竜二』で数々の映画賞を取り、最初で最後のたった一本の主演作で日本映画史に
クッキリと名前を残した。

話は最初に戻るが、私はどうやら勘違いしていた。
『竜二Ｆｏｒever』という映画は、てっきり『竜二』の続編かと思っていた。
しかし、『竜二』と『金子正次』両方を素材にした映画らしい。

それならぜひ観てみたい。
金子さんの映画への思い、“熱”を再び感じることができるかもしれない。