記憶がとぎれていた
わたしは長い時間眠りつづけていたのだろうか
外は冬
遠くのほうでバイクの音がする
わたしのほうへと近づいてくる
運転している男をわたしは知らない
しかしわたしが呼んだと言っている
あれは一人の男が射殺されたニュースを聞いた日
その日はずっと殺された男のことや
殺された男の妻のことなど考えていた
わたしはさほど憂うつな気分ではなかった・・・・・
二十数年前の夏
父が死んだ
臨終の場に入れてもらえなかった
いまだに人の臨終に立ち会ったことがない
父の死も射殺された男の死も
死と死の間に出会ったいくつもの死も
ひとつひとつがゆるやかな放物線を描き
わたしの前から消えていった
有から無へ移行する温度差及び感触について
そこいらへんのところをどうどうめぐりしていた
見失った時間
何かを待っていただけなのかもしれない
外は雪
見知らぬバイクに乗ろう
わずかに身につきはじめた憂うつを
振りはらいにいこう
バイクに乗って