けものたちの夜へ

満月の夜

茨のしげみよりけものたちは生まれる

白いうなじのかたちした一本の木のまわりで

けものたちの夜がはじまる



虚空には囚われの星々

さんざめく虚飾の傍観者たち

その方向へとさしのばされた木の指の

あわいからこぼれおちる　黒い刻（とき）

天にむかってなにを誓うというのか　木



逆しまに吊されたマリオネット

目と耳と口を塞がれた無垢の罪人

そのかぼそいすすり泣きは夜の冷気にまぎれ

すきとおった風のかすかなみじろぎに

いちまいずつ衣（きぬ）をぬぐ　あえかな葉音も

黙する木のひそかな祈りも

黒い時間のかなたへかき消されていく



音の死んだ夜

けものたちの咆哮に

ぐらりと木が揺れ

屹立する淋しい木のこぼす

蜜の濃度にも似たしたたりは

けものたちを酔わせて



あかつきに砕かれる

けものたちの夜の終わりに

白い木の中心より

無人の貨物列車

地上に墜ちたマリオネットを満載して

聖母マリアの赤い月へと発つ